ハインリッヒの法則
この法則は、労働災害における経験則の1つであり、 1つの重大事故の背景には、29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するという法則です。

ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)
アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが発表した法則です。「同じ人間が起こした330件の災害のうち、1件は重い災害(死亡や手足の切断等の大事故のみではない。)があったとすると、29回の軽傷(応急手当だけですむかすり傷)、傷害のない事故(傷害や物損の可能性があるもの)を300回起こしている。」というもので、300回の無傷害事故の背後には数千の不安全行動や不安全状態があることも指摘しています。また、ハインリッヒは、この比率について、鉄骨の組立と事務員では自ずから異なっているとも言っていますが、比率の数字そのものではなく、事故と災害の関係を示す法則としては、現在も十分に活用できる考え方です。

同様の研究としては、バードの事故比率があり、297社の175万件の事故報告を分析して、1(重傷又は廃失):10(傷害):30(物損のみ):600(傷害も物損もない事故)の比率を導き出しています。
これらの研究成果で重要なことは、比率の数字ではなく、災害という事象の背景には、危険有害要因が数多くあるということであり、ヒヤリハット等の情報をできるだけ把握し、迅速、的確にその対応策を講ずることが必要であるということです。
ハインリッヒの法則・バードの法則・ドミノ理論の違い
ハインリッヒの法則、バードの法則、ドミノ理論は、いずれも労働災害や事故の発生メカニズムを説明し、安全管理に活用される理論ですが、それぞれに違いがあります。
バードの法則(Bird’s Law)
提唱者:フランク・バード(Frank E. Bird)
概要:
- ハインリッヒの法則を発展させ、より詳細な調査を基に導き出された法則。
- 1件の重大事故に対して、10件の軽傷事故、30件の物損事故、600件のヒヤリハットがある(「1:10:30:600」の比率)。
- 物的損害も考慮し、事故の予防にはより多くの要因を分析する必要があるとした。
特徴:
- ハインリッヒの法則を拡張し、物損事故も含めてリスクを分析。
- より具体的なデータに基づき、安全管理を強化。
ドミノ理論(Domino Theory)
提唱者:ハインリッヒ(Heinrich)
概要:
- 事故の発生を**「5つのドミノ」に例え**、どれか1つを取り除けば事故を防げるとする理論。
- 5つの要素:
- 社会環境・遺伝的要因(個人の性格や習慣)
- 個人の過失(不注意、無知、不適格)
- 不安全な行動・状態(危険な作業方法や環境)
- 事故の発生(人や設備への衝突・接触)
- 傷害・損害(けがや設備損壊)
特徴:
- 事故は単独ではなく、一連の原因が積み重なった結果として発生。
- 事故の連鎖を断つことで、安全を確保できる。
違いのまとめ
法則 |
提唱者 |
主要な概念 |
特徴 |
ハインリッヒの法則 |
ハインリッヒ |
1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットがある |
ヒヤリハットの対策が重要 |
バードの法則 |
バード |
1件の重大事故の背後には10件の軽傷事故、30件の物損事故、600件のヒヤリハットがある |
物損事故も含めてより詳細な分析 |
ドミノ理論 |
ハインリッヒ |
事故は5つのドミノが連鎖して発生する |
事故の連鎖を断つことが重要 |
- ハインリッヒの法則やバードの法則は、事故の発生比率を示し、ヒヤリハットや軽微な事故を減らすことが重大事故を防ぐと考える。
- ドミノ理論は、事故を連鎖的な原因の結果と捉え、どこかの要因を取り除くことで事故を防げると考える。
いずれの理論も、労働災害の防止やリスク管理に活用されており、企業や安全管理の現場ではこれらを組み合わせて運用することが一般的です。
ハインリッヒの法則の具体例
ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)は、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故、さらにその背後には300件のヒヤリハット(危険な出来事)があるという考え方です。これを具体的な状況で説明します。
具体例①:工場の作業現場
状況
ヒヤリハット(300件)
- 作業員が機械の近くを歩いていて、手袋が機械に引っかかりそうになった。
- 床に油がこぼれていて、滑りそうになった。
- 作業員が安全装置を一時的に解除して作業を続行した。
- 工具が適切に整理されておらず、作業台から落ちそうになった。
軽微な事故(29件)
- 作業員が実際に床で滑って転び、軽い打撲を負った。
- 手袋が機械に巻き込まれて破れたが、幸いケガはなかった。
- 工具が落ちて足に当たり、軽い痛みを感じた。
- 安全装置を解除したまま作業し、機械の部品が飛び散り、作業員の腕に小さな切り傷ができた。
重大事故(1件)
- 作業員の手が機械に巻き込まれ、指を切断する大事故が発生。
ヒヤリハット(危険な兆候)が多数発生している段階で適切に対策を取れば、軽微な事故や重大事故を防ぐことができる。
具体例②:建設現場
状況
ヒヤリハット(300件)
- ヘルメットをかぶらずに現場を歩いている作業員がいた。
- 足場の一部がグラグラしているが、そのまま作業を続けた。
- 工具を高所に置いたままにし、落下しそうになった。
- 安全帯を付け忘れたまま高所で作業を始めた。
軽微な事故(29件)
- 工具が落下し、地面に当たって壊れた。
- 作業員が足場でつまずいて転倒し、軽い打撲を負った。
- ヘルメットを着用していなかった作業員の頭に小さな部品が当たり、軽いケガをした。
重大事故(1件)
ヒヤリハットの段階で、安全対策(ヘルメット着用、工具の整理、安全帯の確認)を徹底すれば、重大事故を未然に防ぐことができる。
具体例③:交通事故
状況
ヒヤリハット(300件)
- スマホを見ながら運転しそうになった。
- 信号が黄色になったが、無理に進もうとした。
- 交差点で一時停止をせずに通過しそうになった。
- 道路のわきに飛び出してきた歩行者に気づくのが遅れた。
軽微な事故(29件)
- スマホを見ながら運転していて、前の車に軽く追突。
- 黄色信号で無理に進んだため、急ブレーキを踏んで後続車にクラクションを鳴らされた。
- 交差点で一時停止をしなかったため、自転車と接触しそうになったが、ギリギリで回避。
- 狭い路地で歩行者に気づくのが遅れ、急ハンドルを切ってギリギリ回避。
重大事故(1件)
- 交差点で一時停止せずに進み、歩行者をはねて重傷を負わせる事故を起こした。
日常の小さな危険運転(ヒヤリハット)を放置せず、注意深く運転することで重大事故を防げる。
ハインリッヒの法則における「ヒヤリハット」を軽視せず、早い段階で安全対策を講じることが、重大事故の防止につながるという考え方が重要です。
どの業界でも適用できるので、工場・建設・交通・医療・オフィスなど、あらゆる現場で安全意識を高めるのに役立ちます。
ハインリッヒの法則 イラスト


